B班 第1回研究会

日時:10月16(月)・17日(火)

場所:北陸先端科学技術大学院大学 情報科学研究科

On Lexicalist Approaches to Japanese verb complex 郡司隆男 (大阪大)

文脈自由文法を用いた構造的共起関係の抽出 斎藤博昭 (慶応大)

対話文処理と非言語的処理の統合に向けて 岡田直之 徳久雅人 (九州工大)

国語辞典に基づくシソーラスと単語の意味分類について 鶴丸弘昭 (長崎大)

自立語間の共起関係による意味解析 奥村学 (北陸先端大)

日常言語の意味の諸相 田中茂範 石崎俊 (慶応大)


1. On Lexicalist Approaches to Japanese verb complex

郡司隆男 (大阪大)

本発表では,言語の構造の表示に,句構造によって表わされる階層的 な構造と,比較的浅いレベルのリストによって表わされる形態的な構 造とを表示しわけることを提案した.これにより,使役化辞「させ」 がついた場合などの,意味・統語的な振舞いと形態的な振舞いとの間 に見られる,相反すかに見える現象が自然な説明を得ることを主張し た.本研究によって得られる形態的な構造は,音韻的な構造を決定す る場合の基礎となるものであり,言語の意味・統語・音韻を総合する 表示を与えることができる.


2. 文脈自由文法を用いた構造的共起関係の抽出

斎藤博昭 (慶応大)

自由発話における語順の自由さ,非文法性の発現といった現象に対処 するには,文脈自由文法の構文ルールのみの解析では限界がある.そ こで,構文ルールは緩くし,語間の共起関係を積極的に活用すること を提案する.この共起関係として,bigramやtrigramと違って構造的 な情報を持つものを,一般LR構文解析法を用いて抽出する実験を行っ た.中学3年間の英語の教科書1280文を263ルールの文法(終端記号は 83のBrown Corpusで使われている品詞)で解析し,主語-動詞,動詞- 目的語,前置詞-名詞の共起関係を求めた.自由発話文の解析時にこ の共起関係を意味アクション中で取り扱うことで,エラー対応型LR構 文解析法をより頑健にすることができる.


3. 対話文処理と非言語的処理の統合に向けて

岡田直之 徳久雅人 (九州工大)

小学校低学年程度の,知性と感性を持つ2人のエージェントが”勧誘” をテーマに対話を行なうシステムの構築を進めている.自然言語処理 の多くは,抽象的な概念記号を中心に語彙概念や種々の規則ベースを 作成する.本システムでは,対話に関係して,エージェントの認識や 行動が伴う.特に,位置変化,向きの変化および形の変化を伴う行動 に関して,記号中心の言語行為とアナログ信号を伴う行為の関係につ いて述べた.


4. 国語辞典に基づくシソーラスと単語の意味分類について

鶴丸弘昭 (長崎大)

対話文理解のために,国語辞典を利用した単語(の表す概念)間の上 位下位関係に基づくシソーラス(語彙知識ベース)の構築法について 研究を進めている.一般に,国語辞典での語義の説明(定義)は,見 出し語の表す概念の上位概念(この上位概念を表す語を上位語または 定義語と呼んでいる.)をいくつかの側面(見方)から制限したり, 特殊化したりすることによりなされている場合が多い.語義文のこの 特徴に着目して,これまで,語義文から定義語を抽出し見出し語との 関係付けを行うシステムの開発,それを利用したシソーラス作成シス テムの構築,および,新明解国語辞典の名詞を対象にしたシソーラス の試作を行って来ている.本稿では,まず,この試作シソーラスの概 要とその問題点について考察し,次に,語義文中で定義語の表す概念 を限定し,特殊化している見方について具体例を用いて検討し,さら に,試作シソーラスでの同位語の,見方による意味分類について考察 している.


5. 自立語間の共起関係による意味解析

奥村学 本田岳夫 相場徹 (北陸先端大)

本研究では,音声対話の発話において,脱落や誤認識が起きやすい, 助詞・助動詞の情報を除いた自立語列を入力とし,付属語に対応する 深層格を推定し,発話に対する意味構造を格フレームとして出力する 手法を開発する. 深層格を推定する際には,自立語間の共起関係を 用いる.この際,カバレッジを向上させるため,従来の格フレーム辞 書を用いるのではなく,近年整備が進んでいる大規模コーパスの情報 を基に解析を行なう.具体的には,日本電子化辞書研究所(EDR)が開 発した共起辞書および日本語コーパスを用いる.本手法は,コーパス からの共起関係として,$<$名詞,深層格,動詞$>$の3つ組の共起関係を 利用する. この自立語間の共起頻度を基にスコアづけし,最もスコア の高い深層格を得ることによって格解析を行なう.なお, 3つ組の共 起関係がコーパス中に出現しない場合は, $<$名詞,深層格$>$, $<$深層格, 動詞$>$の2つ組から3つ組の共起関係を推定することによって, コー パスを利用した統計的手法で問題となる,データのスパースネスの問 題を解消する.


6. 日常言語の意味の諸相 --意味づけ論の展開--

田中茂範 石崎俊 (慶応大)

コミュニケーション・プロセスにおける意味問題を扱うため,「意味 づけ論」を提案した.意味づけ論は,「言葉には意味がある」という 従来の意味論の立場は採らず,コトバ(言語形式)は意味づけられて 言葉(意味を担った記号)になるという立場を採る.コトバは記憶を トリガーする刺激であり,記憶の関連配置がそのコトバの意味に他な らない.関連配置形成に関与するのは,「呼び起こし(triggering)」 と「引き込み合い(entraining)」の2つである.単一語としてのコト バは開かれた記憶断片を呼び起こすが,複数のコトバ配列が提示され ると記憶同士の相互の引き込み合いが起こり,それによって形成され るのが記憶の関連配置(事態の構成)である.引き込み合いは,曖昧 性の縮減,慣用化,意味の創造を説明する概念装置でもある.関連配 置化された記憶を意味づけ論的に翻訳するなら,それは重層的な意味 であり,意味の融合態 --<対象把握・内容把握・意図把握・態度把 握・表情把握の融合態>-- である.