B班研究会

日時:7月18日(月)・19日(火)

場所:千歳・支笏湖観光ホテル

音素文脈依存性制約のLR表への導入  田中穂積 (東工大)

語彙的結束性に基づいた談話のセグメンテーション  奥村学 (北陸先端大)

確率文脈自由文法の特性方程式と健全性  日高達 (九大)

対話理解において音声が担う情報  阿部純一 (北大)

仮説推論の拡張としての文および談話の解釈  松本裕治 (奈良先端大)

対話文章の構造化について ---応答文生成に向けて---  田村直良 (横浜国大)

自由発話理解における構文緩和について  斉藤博昭 (慶応大)


1. LR表への音素環境依存モデル導入に関する研究

田中穂積 (東京工業大学)

音声認識には音響的な情報だけでなく,言語的な情報が必要であると されている.GLR統語解析法は,両者を統合した解析が可能であり, CMU,ATRなどで,すでに,GLR統語解析法を用いた音声理解システム の研究が進められている.音素をベースにした音声認識システムを構 築する場合,各音素は,前後に現れる音素の影響を受ける.これを異 音と呼んでいるが,異音をベースにした音声認識システムもGLRの枠 組で扱うことが可能であることが知られている.このとき,単語の先 頭(末尾)の音素については,それらの前(後)の音素としてどのような ものが現れるかをあらかじめ知ることができないため,動的に決定す る方法がこれまで取られていた.我々は,この問題を,LR表を修正す ることで解決する新しい方法を提案している.また,このとき用いる LR表として,正準LR表がもっとも最適であることを指摘している.


2. 語彙的結束性に基づいた談話のセグメンテーション

奥村学 (北陸先端科学技術大学院大学)

本研究では、談話のつながりを明示する表層的な情報である語彙的結 束性に基づいて、談話を意味段落に分割する手法について述べる。語 彙的結束性を示す語彙的連鎖は、談話中の互いに関連する語の連鎖で あり、談話中でその連鎖が存在する部分の意味のまとまりを反映して いると考えることができるので、語彙的連鎖を用いて談話を意味段落 に分割するための尺度を計算することができる。 本研究では、語彙的連鎖の開始・終了位置および、ギャップの位置か ら、段落境界を推定する手法を提案し、国語の現代文の問題集の段落 分割の問題に対して段落分割の実験を行う。


3. 確率文脈自由文法の特性方程式と健全性

日高達 (九州大学)

確率文脈自由文法において,すべての文の生起確率の総和は1になる と思われているが,必ずしもこのことは成立しないことを代数方程式 により一般的に証明する.


4. 対話理解において音声が担う情報: 日本語音声における口調と印象

阿部純一 大津起夫 (北海道大学)

日本語音声によって,純粋に言語的な情報以外にどのような情報が伝 達されているのか,その詳細を探る一つの心理学的実験を行った.そ の手順は以下のとおりであった. (1)口調を表す語彙を質問紙調査によって調べる. (2)代表的な口調による短文の発話を用いて,類似性の評定実験を行う. (3)音声資料の物理的特徴パラメータを検討する. (4)前記のパラメータを用いて合成音声を作成し,評価実験を行う. その結果,基本周波数,そのトレンド(話調降下量),およびアクセ ント強度が,「落ち着き」の印象を与える物理的手がかりとして重要 であることが明らかとなった.また,それ以外の印象については,ピッ チ変化パターンだけでは十分に説明できないことが分かった.


5. 仮説推論の拡張としての文および談話の解釈

松本裕治 (奈良先端科学技術大学院大学)

人間の間の対話状況では,発話される文は文法的に適格な文であると は限らない.したがって,頑健な自然言語処理技術が要求されるが, 対話状況で重要なのは,文の文法的な理解ではなく,話者が意図して いる伝達内容である. 我々は,文法的に不適格な文の理解を,仮説推論の一般化としてより 包括的な文理解の枠組によって説明しようと試みている.基本的な考 え方は関連性理論に基づいているが,ここでは,Hobbsらのアブダク ションによる文の理解の考え方と対比させて,我々の考え方の定式化 を試みた.また,例を用いて,従来の考え方と我々のアプローチの比 較検討を行なった.


6. 対話文の構造解析および応答文生成のための文の扱い

田村直良 (横浜国立大学)

始めに、実験的な対話文解析システムについて報告した。まず、発話 文を受型、係型、述型の3タイプに分類し、隣接する文間の関係によ り発話ユニットを判定する。次に、取り立て助詞等のマーカを手がか りに話題を抽出し話題の観点から対話をセグメント化する。これらを 複合させることにより対話文章を構造化するものである。比較的簡単 に実現でき、特別な知識も必要としないため、大量な文例を処理する データベースなどへの応用に期待できそうである。 続いて、人間対計算機の対話システムにおける応答文生成を目標とし て、対話の大域的な展開を、有限オートマトンによるスキーマとして 表現した。これは、主導権を持った側の状態遷移を相手の発話により 駆動するものである。また、発話の意図、前提条件、後続する文タイ プの観点などから発話文を13に分類し、それぞれについて主導権の局 所的展開について検討した。今後はこれらの枠組により、対話システ ム実現に係わる諸問題について検討を進めていく。


7. 自由発話理解における構文緩和について

斎藤博昭 (慶應義塾大学)

自由発話での倒置・言い足しに代表される語順の自由さを文脈自由文 法ですべて書き表すことは容易ではない。しかも発話それ自体が非文 であることも多くなる。従って、構文ルールを細かく書き下すことは 現実的な対処ではなく、「構文的には緩く解釈し、発話の意味を抽出 する」方策が必要になってくる。 この方向の第一段階として、構文的には緩い文法ルールを用いる一方、 単語間の共起関係をも意味として取り扱うことを提案する。単語間の 共起関係を統計的に求めるために、文脈自由文法を用いたパーザに多 くの文例を通し、各ルールにおける語間の関係を求める。このように して求めた関係は、bigramやtrigramにおいては語間の表層的な関係 しか得られないのに対して、構文的なつながりを反映するものとなる。 解析時にこの共起関係を意味アクション中で取り扱うことで、エラー 対応型LR構文解析法をより頑健にすることができる。