C班・D班合同研究会

日時:12月19日(日)・20日(月)

場所:神戸・有馬温泉 有泉閣


1. プランの概念を用いた概念理解と表出  --事例に基づくプランニングによる対話管理手法--

    上原邦昭 荻野 浩司 (神戸大学)

本稿では,従来の対話管理手法の問題点を議論し,それらの問題点を 解消するための代替案として,事例の逐次修正に基づくプランニング を用いた対話管理の枠組手法を提案する.本手法の利点として,抽象 的談話構造モデルにおけるプランオペレータの利用に比べて,記述が 容易であることが挙げられる.また,過去に構築したプラン事例が再 利用できるので,システムは同じような推論過程を辿らずに,即座に 近似解を導くことができ,計算負荷が軽減できる.さらに,事例の変 形操作という考え方によって,対話の局面に応じて,現在利用中のプ ラン事例を逐次的に修正できるため,プラン実行段階でのユーザとの 様々なインタラクションにも対応できる.


2. 対話からの知識獲得に関する研究  --対話からの知識獲得の基本メカニズムの検討--

    佐藤理史 (北陸先端科学技術大学院大学)

本稿では、知識とのインタラクションを中心とした、対話からの知識 獲得のモデルについて検討する。その基本的な考え方は以下の通りで ある。1. 発話の理解を、知識との照合として捉える。照合の結果、 発話を概念世界に写すことができたならば、その発話を理解できたと 考える。2. 応答は、知識との照合の結果によって決まる。


3. 知識コミュニティにおけるエージェントの仲介

    西田豊明 武田英明 飯野健二 (奈良先端科学技術大学院大学)

われわれは、大規模知識ベースの実現として、知識の生産・共有・利 用の枠組み 知識コミュニティ (The Knowledgeable Community)を提 唱し、そのプロトタイプの開発を進めている。大規模な分散協調シス テムではエージェントの仲介機構が必須である。本稿では、知識コミュ ニティにおける仲介方式について述べる。特に、エージェントが扱う 情報空間の概念構造を表現した共通のontologyを与え、それを仲介に おいて利用する方式について詳しく述べる。この方式は、機能的・挙 動的に異なるエージェントを統合的に扱うひとつの有効な方法である と考えられる。


4. 常識の記述と計算に関する考察

    横田将生 (福岡工業大学)

自然言語処理をより精密で体系的に行うためには、人間が共通に持っ ている概念体系(自然概念体系と呼ぶ)の論理的構成が必要である。 我々は、そのような概念体系が、(1)物理的世界(外界)、(2)精神的世 界(内界)、および(3)それらの境界のそれぞれに対応する3個の部分 概念体系よりなると考えている。人間の自然言語獲得過程を省察して みると、外界に関する部分概念体系が最も重要かつ基本的であり、人 間の、いわゆる、「常識推論」の基盤になっていることが推察できる。 本稿では、この推定に基づき、自然概念体系の演繹システムとしての 実現、常識推論の形式化およびその自然言語処理への応用について論 じる。


5. 対話過程のモデルの構築に向けて

    藤崎博也 大野澄推 (東京理科大学)


6. 心的情報処理モニターとしての間投詞

    田窪行則 (九州大学) 定延利之 (神戸大学)

本研究は、知識データベースの更新操作とみる立場から、対話参加者 の行う操作を操作意味論的なモデル化をする試みである。まず、指示 詞、固有名詞、人称名詞等の使用規則からデータを格納する認知的な 空間の構造をみる。さらに、終助詞類、陳述副詞、接続副詞といった 意味機能のはっきり捉えられなかった語類の機能をデータ管理操作の 指令と見ることにより、明示的な計算操作として位置づけ、対話のデー タとしてはこれまで雑音や無意味であるとして切り捨てられてきた、 間投詞、いい淀み、呼掛け、つなぎ言葉等を話し手の心的処理状態の モニター標識として分析ことにより、対話の動的なモデルを構成する。


7. 注意機構に基づく音声対話処理

    安西祐一郎 今井倫太 (慶應義塾大学)

本研究では、センサ情報(非言語情報)の一部に注目する注意機構を 利用し、外界に依存した発話を生成するロボット用発話機構 Linta-II を構築する。Linta-IIでは、センサ情報の一部に注意して いるため、センサ情報選択のための完全な制約なしに、外界に依存し た発話が生成可能である。


8. 音声と手話における”かぶせ素性”の検討

    市川熹 八木健司 (千葉大学)

人間にとって最も基本的なコミュニケーション・メディアである話し 言葉と、聴覚障害者の日常のコミュニケーション・メディアである手 話が、共にその基本的性質として対話型自然言語と看做されることを 先ず示す。対話型自然言語が日常効果的に機能している背景には、書 き言葉とは異なった重要な性質が備わっていると思われる。対話型自 然言語理解システムを実現するには、従来の書き言葉を基本とする自 然言語処理手法とは異なった、この性質を活用する新しい処理法の開 発が必要であろう。この重要な性質とは、対話中での文章には、その 文章を構成する要素の意味的まとまりや、文や談話の構造に関する情 報(”かぶせ素性”)や対話制御の為の情報が、知覚されやすい形式 で存在するという点である。この情報が話し言葉に関する研究ではど のように考えられ、どのようなことが明かにされてきたか、何が課題 として残されているかを示し、これとの対比から手話ではどのように 考えられうるかを考察する。この考察に基づき、音声及び手話に関す る若干の予備的実験結果について報告する。この結果は、対話言語の 理解過程は並列処理であ ることが本質的であることを示唆している。 これらの検討はマルチモーダル・インタフェース実現のための基礎的 研究としても重要になろう。


9. 音声対話の転記のための基本的な文法タグ

    土屋俊 (千葉大学)

音声対話コーパス作成の際に必要とされるタグつき正書法転記の目的 と記法について、とくに、日本語音声対話における「単語」および 「品詞」の表現に関して議論する。日本語正書法は、分かち書きを採 用していないが、単語による検索、統計処理のためには、コーパスの 中で単語に区切られていることが必要となる。また、やはり検索、統 計のためには、完全と言えないまでもある程度の「品詞」情報をあた えておかないと、とくにひらがな表記語の場合などはユーザ側での操 作が要求される。したがって、正書法転記を音声対話のコーパスに含 めるためには、なんらかの単位への分割とその分類が必要になること を示す。作業量、安定性、効率などを勘案するならば、適切な単位は、 現在一般に「単語」と認定されているものよりも、言語的には形態素 に近い、短いものとすすることが妥当である。タクつき転記において は、この単位の分類名称はSGMLの意味でのentityとしてあつかうこと が可能である。


10. 音声対話形式による日本語教育支援(CAI)システムの研究

    壇辻正剛 (関西大学)

本発表では、日本語教育の初等教育の部分に重点をおいて、自習の反 復練習を可能にすると共に、自然な発話の習得を可能にする、音声デー タベースを内蔵した音声対話形式のコンピュータ支援システムの開発 を目指して行なった基礎的な研究について概説する。


11. 知識モデルに基づく感動詞・終助詞・応答詞類の包括的研究

--談話管理理論に基づく日本語終助詞「ね」の分析--

    金水敏 (神戸大学) 田窪行則 (九州大学)

一般に、対話型コミュニケーションの知識モデルとして、話し手の初 期値として相手との共有知識と非共有知識を仮定することが多い。こ れをMKモデルと称する。本発表では、MKモデルは理論的にも現象 的にも不適切であることを、具体的な対話例と、共有知識に直接依存 すると説明されてきた日本語終助詞「ね」の分析を例にとって示した。 またMKモデルに代わる案として、対話の初期値に話し手の立証済み 知識のみを仮定し、コミュニケーションを立証ゲームとして見る談話 管理理論を提示し、これが対話者の「共有知識」形成過程を説明し、 かつ「ね」の機能が直接的にこの「立証過程」のマーカーとして見な し得ることを示した。


12. 助動詞・助詞の関係的意味に基づく日本語談話理解システムに 関する研究  --複文の意味論--

    中川裕志 森辰則 (横浜国立大学)

我々の目的は、これまでに扱えなかったような文ないし談話を理解で きるシステムの構築である。そのために単一化文法を基礎とするシス テムを念頭におくが、そこにおいて役立つような日本語における種々 の制約を形式化することがまず必要になる。このような理解システム における重要な機能として、ゼロ代名詞の照応があげられるが、その ためには構文論、意味論、語用論の全てが関与してくることになる。 したがって、我々の提案しようとする制約もこれら全域に渡るものに なる。本年度は特に複文の意味について検討した。複文の意味とは大 雑把に言って、副節と主節に現れるいくつかの意味役割の間の関係で あるから、これらの関係に対する制約は助動詞、助詞、述語などの関 係論的意味に基づくものとして定式化できた。


13. 道具型システムにおける対話の認知モデル

    小林哲則 (早稲田大学)

道具型システムのインタフェース設計・評価のためにユーザの内的欲 求をモデル化し、これを利用することを提案した。道具型システムの ユーザは基本的には楽に仕事を完了することを望んでいると考えられ るが、楽であるということを、種々のパラメタの関数として捉えると、 結局はインタフェースのアプリケーションに対する特化の程度とシス テムに対するユーザの習熟度の関数に帰着することを指摘した。これ を評価関数として最適化を図るとるとき、システムは、ユーザの習熟 度に応じて最適な特化形態を提供すること、およびユーザの習熟度を 促進する方向での利用形態の移行を支援することが重要であることが 導かれることを述べた。


◎パネル討論 「対話の認知モデルとその実現」

パネリスト: 上原邦昭 (神戸大)

       北橋忠宏 (大阪大学)

       小林哲則 (早稲田大)